そこで、機械を用いた一斉収穫による作業効率化を見据え、開花揃いの改善を図るための挿し芽前の穂冷蔵処理の効果について検証しました。
一斉収穫体系に向けた課題
県内の小ギク収穫作業では、圃場全体を見回り収穫適期の花を1本ずつ採花しており、調製・出荷作業と並んで多大な労力を要する作業の一つとなっています。そこで、一斉収穫機などによる作業効率化が検討されていますが、小ギクは同じ日に同じ品種を定植しても採花が始まってから終わるまでの期間が長く、一斉収穫により出荷ロス(未開花茎など)が増加することが課題となっています。そのため、一斉収穫体系の導入に向け、開花揃いを向上させ採花期間を短くさせることが重要となります。
穂冷蔵処理の効果と適正な冷蔵期間
小ギク生産では、採花後の切り下株を親株床に植え替え、越冬させて発生した新芽をセルトレイに挿して(挿し芽)定植苗を仕立てる方法が主流となっています。定植苗数を確保するため、挿し芽までに親株からの採穂を繰り返しますが、この挿し芽前の穂を冷蔵処理すると小ギクの開花揃いが改善することが報告されています(奈良県ほか、2011:11-12)。そこで県内の主要品種を用いて、7~9月出荷作型での穂冷蔵処理の効果と適正な冷蔵期間を検討しました。
試験は2022年、2023年の2か年実施し、2022年は8月出荷作型4品種、2023年は7、8、9月出荷作型の計11品種を供試しました。挿し芽日から逆算して採穂し(2022年は4週間前、2023年は1、2、4週間前の3水準)、挿し芽当日まで2℃で冷蔵処理した区と挿し芽当日に採穂した対照区を設置しました。
●2022年作の結果(8月出荷作型)
対照区と比較して、4週間の穂冷蔵を行った4w穂冷蔵区において節数が増加し、品種により最大で8日の採花開始日の遅れが見られました(表1)。
また、採花期間は4品種すべてで3~5日程度短縮し、県内主力品種においても穂冷蔵処理による開花揃いの改善効果が確認されました。
品種名 (花色) |
試験区 | 発蕾日 (月/日) |
採花日 (月/日) |
採花期間 (採花始-終1)) |
対照区 との差 |
節数 | 対照区 との差 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
精はんな (赤) |
対照区 | 6/22 | 7/19 | 16 (7/11-7/26) |
– | 34.0 | – |
4w穂冷蔵区 | 6/25 | 7/23 | 12 (7/17-7/28) |
-4 | 37.2 | 3.3 | |
精しらいと (白) |
対照区 | 6/24 | 7/31 | 22 (7/22-8/12) |
– | 39.9 | – |
4w穂冷蔵区 | 6/28 | 8/6 | 17 (7/30-8/15) |
-5 | 40.9 | 1.0 | |
すばる (黄) |
対照区 | 6/28 | 7/24 | 14 (7/17-7/30) |
– | 35.8 | – |
4w穂冷蔵区 | 6/28 | 7/26 | 10 (7/22-7/31) |
-4 | 38.4 | 2.6 | |
精さとみ (黄) |
対照区 | 7/16 | 8/21 | 13 (8/14-8/26) |
– | 48.6 | – |
4w穂冷蔵区 | 7/16 | 8/17 | 10 (8/14-8/23) |
-3 | 50.4 | 1.8 |
※4/25定植
1)採花本数が5%に達した日を「始」、95%に達した日を「終」とした
●2023年作の結果(7月、8月、9月出荷作型)
7月出荷作型の4品種のうち、「精ことひら」「精しらたき」および「精こまき」の3品種で、前年と同様の節数増加や採花開始の遅れが見られ、効果には品種間差がありました(表2)。また冷蔵処理期間について、1週間の冷蔵処理を行った1w穂冷蔵区、2週間の2w穂冷蔵区および4週間の4w穂冷蔵区を比較したところ、冷蔵期間が長いほど採花期間を短縮させる効果が大きくなる傾向が認められ、4w穂冷蔵区の採花期間はいずれの品種でも対照区と同等以下となりました。
品種名 (作型・花色) |
試験区 | 採花日 (月/日) |
採花期間 (採花始-終1)) |
節数 | 対照区 との差 |
---|---|---|---|---|---|
精ことひら (7月赤) |
対照区 | 6/9 | 8 (6/6-6/13) |
27.7 | – |
1w穂冷蔵区 | 6/10 | 7 (6/8-6/14) |
28.1 | 0.4 | |
2w穂冷蔵区 | 6/12 | 7 (6/9-6/15) |
30.1 | 2.4 | |
4w穂冷蔵区 | 6/14 | 5 (6/12-6/16) |
30.7 | 3.0 | |
精はんな (7月赤) |
対照区 | 7/5 | 16 (6/27-7/12) |
39.8 | – |
1w穂冷蔵区 | 7/1 | 16 (6/22-7/8) |
36.7 | -3.0 | |
2w穂冷蔵区 | 7/5 | 15 (6/28-7/12) |
38.9 | -0.9 | |
4w穂冷蔵区 | 7/1 | 10 (6/27-7/6) |
37.2 | -2.6 | |
精しらたき (7月白) |
対照区 | 6/15 | 7 (6/13-6/19) |
34.1 | – |
1w穂冷蔵区 | 6/19 | 10 (6/15-6/24) |
35.9 | 1.8 | |
2w穂冷蔵区 | 6/20 | 9 (6/16-6/24) |
37.5 | 3.4 | |
4w穂冷蔵区 | 6/21 | 7 (6/19-6/25) |
38.2 | 4.1 | |
精こまき (7月黄) |
対照区 | 6/16 | 11 (6/10-6/20) |
33.1 | – |
1w穂冷蔵区 | 6/18 | 8 (6/15-6/22) |
34.5 | 1.4 | |
2w穂冷蔵区 | 6/19 | 6 (6/17-6/22) |
35.2 | 2.0 | |
4w穂冷蔵区 | 6/19 | 7 (6/16-6/22) |
35.9 | 2.8 |
※7月作型:3/29定植
精はんな (8月赤) |
対照区 | 7/25 | 18 (7/16-8/2) |
39.2 | - |
---|---|---|---|---|---|
1w穂冷蔵区 | 7/22 | 11 (7/18-7/28) |
36.6 | -2.6 | |
2w穂冷蔵区 | 7/21 | 17 (7/13-7/29) |
36.3 | -2.9 | |
4w穂冷蔵区 | 7/22 | 16 (7/13-7/28) |
38.4 | -0.8 | |
常陸サ マールビー (8月赤) |
対照区 | 8/5 | 10 (8/1-8/10) |
50.9 | – |
1w穂冷蔵区 | 8/3 | 8 (7/31-8/7) |
50.7 | -0.2 | |
2w穂冷蔵区 | 8/3 | 12 (7/31-8/11) |
50.5 | -0.4 | |
4w穂冷蔵区 | 8/3 | 11 (7/29-8/8) |
51.0 | 0.1 | |
常陸サ マーシルキー (8月白) |
対照区 | 7/19 | 8 (7/16-7/23) |
35.6 | – |
1w穂冷蔵区 | 7/20 | 9 (7/16-7/24) |
35.6 | 0.1 | |
2w穂冷蔵区 | 7/20 | 7 (7/18-7/24) |
36.5 | 1.0 | |
4w穂冷蔵区 | 7/21 | 7 (7/18-7/27) |
37.5 | 2.0 | |
すばる (8月黄) |
対照区 | 7/20 | 10 (7/15-7/24) |
36.4 | – |
1w穂冷蔵区 | 7/21 | 10 (7/17-7/26) |
37.8 | 1.5 | |
2w穂冷蔵区 | 7/23 | 9 (7/19-7/27) |
37.1 | 0.7 | |
4w穂冷蔵区 | 7/26 | 8 (7/22-7/29) |
40.5 | 4.1 |
※8月作型:4/25定植
常陸オ ータムゆうひ (9月赤) |
対照区 | 9/12 | 8 (9/9-9/16) |
53.0 | - |
---|---|---|---|---|---|
1w穂冷蔵区 | 9/12 | 7 (9/10-9/16) |
54.1 | 1.1 | |
2w穂冷蔵区 | 9/13 | 8 (9/9-9/16) |
54.4 | 1.4 | |
4w穂冷蔵区 | 9/14 | 8 (9/11-9/18) |
52.6 | -0.4 | |
せせらぎ (9月白) |
対照区 | 9/15 | 11 (9/10-9/20) |
52.3 | – |
1w穂冷蔵区 | 9/15 | 8 (9/12-9/19) |
52.9 | 0.6 | |
2w穂冷蔵区 | 9/15 | 8 (9/12-9/19) |
54.2 | 1.9 | |
4w穂冷蔵区 | 9/14 | 8 (9/11-9/18) |
53.0 | 0.7 | |
精りゅうこ (9月黄) |
対照区 | 9/18 | 13 (9/12-9/24) |
44.9 | – |
1w穂冷蔵区 | 9/17 | 8 (9/14-9/21) |
43.8 | -1.1 | |
2w穂冷蔵区 | 9/17 | 6 (9/15-9/20) |
45.4 | 0.5 | |
4w穂冷蔵区 | 9/16 | 6 (9/14-9/19) |
44.7 | -0.1 |
※9月作型:5/25定植
1) 採花本数が5%に達した日を「始」、95%に達した日を「終」とした
8月出荷作型では、4品種のうち「常陸サマーシルキー」「すばる」の2品種でこれまでの結果と同様の効果が表れました。2022年と2023年の両年で試験した「すばる」と「精はんな」のうち、「すばる」では2年の傾向が一致しており、採花期間は4w穂冷蔵区で最短となりました。「精はんな」は年次によって節数や採花日への影響が異なり、一定の効果は見られませんでした。
9月出荷作型では、試験を行った3品種とも穂冷蔵処理で採花開始日がわずかに遅れ、うち「せせらぎ」および「精りゅうこ」で採花期間が短縮しました。節数の増加は「せせらぎ」でのみ見られ、9月出荷作型では穂冷蔵処理の効果が安定して現れにくいと考えられました。
県内の主要品種や作型でも有効であると確認
以上の結果から、穂冷蔵処理により早期の花芽分化が抑制されることで節数が増加して採花開始を遅らせ、さらには開花揃いの向上に有効であることが県内主要品種や作型においても確認されました。また、これらの効果は冷蔵期間が長いほど安定して高く、本試験では4週間の冷蔵期間が適すると考えられました。品種、作型、年次等によって穂冷蔵処理の効果にバラつきは見られ、親株床や本圃での気温等の影響が考えられましたが、今回の試験では7月出荷作型で穂冷蔵の効果が現れやすく、また8月出荷作型「すばる」では2年を通して効果が安定したことが確認できました。
穂冷蔵処理に関する試験は2024年作でも継続しており(写真)、当研究室では今後も小ギク機械化栽培体系の確立に取り組んでいきます。
![](https://nouiba.jp/wp-content/uploads/2024/12/dee74bba4d0c0cc13d6a652d7ad82643.jpg)
真ん中より左/4w穂冷蔵区、右/対照区(7月出荷作型、品種「夏ひかり」)